担当講師:上野正也(神奈川大学建築学部 准教授)

【講義概要】
重厚長大な産業が衰退するなか、都市または国家における新たな経済のエンジンとして、創造産業は位置付けられてきた。
そして近年では、国内外を問わず様々な自治体において産業振興施策として事業展開されている。今回の講義では、総論として創造産業の潮流について概観する。以降の講義は、創造産業振興には欠かせない中間支援にスポットを当て、クリエイターや作家を様々なものに結びつける力に注目する。これらを通じ、創造産業の現在を知り、またその可能性について考えていく。

◎10月22日(火) 創造産業 総論(上野正也・神奈川大学建築学部 准教授)

創造産業が注目される以前の動きとして、1990年代以降、創造都市は、その概念ともに産業(群)への注目が高まり、産業的視点や文化的視点と相まって、総合的な政策として伝搬してきた。垂直統合型の都市(世界都市)と対比した地域内発型・水平ネットワーク型の都市(創造都市)の発現、公共政策の中央集権から分権への流れに伴う自治体への比重の高まり、産業構造の転換から、その都市が内包している産業群に着目がされることとなり、これが創造産業へと繋がっていった。1997年にイギリスでブレア政権が誕生し、衰退する製造業に変わる新たな雇用の受け皿づくりとして、知的財産の生成を通じて富と雇用を創出する産業群を「創造産業」に位置づけ、クリエイティブ産業政策を実施した。その他創造産業を扱う取組として、創造産業振興をテーマに設定しているユネスコ創造都市ネットワーク、経済産業省による知的財産権ワーキング・グループ等侵害対策強化事業、クールジャパン戦略などが挙げられる。また、国内において創造都市政策を行う都市として、コンテンツ産業に注目をした札幌市(創造都市さっぽろ宣言)、阪神淡路大震災の復興から10年「デザイン都市」実現に向けた人材の集積・活躍を標榜した神戸市、大阪市、神山などがあげられる。また、現在の経済センサスの基礎調査等の統計データによると、創造産業は事業所が減少、従業員数は増加傾向であるなど、大都市比較を交えて創造産業のトレンドが語られた。創造産業の捉え方として、網羅的な視点(統計等)や実体的な視点(人的ネットワーク等)、場の力による人材の集積の寄与度が挙げられる。創造的な産業の育み方について、次回以降の講義で明らかにしていく。

・講義資料