担当講師:杉崎栄介(公益財団法人 横浜市芸術文化振興財団)

【講義概要】
文化芸術創造都市横浜の具体的な取組として、アートNPO主導の文化芸術振興、遊休不動産や公共空間の文化芸術利用、地域アーツカウンシルによる中間支援などがあげられる。これらの施策は行政の企画で始まったように見えるが、実はその多くは経済界の過去の実践や提言を参考にしている。歴史的にみても、行政が文化や芸術の担い手として現在のように登場するのは戦後しばらく経ってからのことで、今なお先駆的な取組の多くは経済界が主導している。本ユニットでは、現在進行形で企業などが行う芸術の担い手支援やアートを通じた地域振興、まちづくりの事例を学び、あらためて創造都市について考える。

◎11月15日(金)信用金庫×美術館/地元企業×博物館で生み出すシビックプライド(石井健二・横浜信用金庫 つきみ野支店長、襟川文恵・横浜美術館 経営管理グループ 担当リーダー、山本博士・株式会社三陽物産 代表取締役、羽毛田智幸・公益財団法人横浜市ふるさと歴史財団 拠点計画推進課 課長)

・講義動画

経済界から学ぶ創造都市として、都市文化の再生に繋がる市民の主体的な取組を紹介してきた。今回は、横浜での2つの取組を紹介する。 横浜信用金庫「創立100周年記念」と横浜美術館「新コレクション収蔵」。横浜美術館は、2008年に企業向け芸術支援プログラム「HEART to ART」をスタートし、横浜信用金庫(横信)はこの頃から継続的に参加している。これは、両者での話し合いのもと、年間を通したプログラムを決め、企業側からの金銭的な支援のお礼として、一般的な展覧会鑑賞券の提供等に加え、コラボレーション企画の提供を行ってきた。具体的な取組として、横信各支店は取引先である幼稚園や保育園への声掛けにより場を提供し、美術館はコンテンツ(工作、粘土、絵画の教育PG等)を出張で実施したこと等が挙げられる。これらにより信頼関係が生まれ、「支援する」「支援される」関係からイーブンな立場で「メリットを交換しあえる」関係が構築でき「創立100周年記念」へとつながった。すなわち、市民・顧客に100周年を印象付け企業のステイトメントと重なるコンテンツを必要としていた横信とリニューアルオープン記念を飾る新しい作品を寄付によって収蔵したい横浜美術館のメリットの交換を成立させることができた。

歴史・文化を支える博物館の運営には、条例などの様々な制約、資金や人材不足、人々や社会の認識・理解への無関心などの問題があり、持続可能性に危機感がある。Deepな歴史ファンや研究者など「わかる人がわかればいい」といった感覚が現状であり、世の中の人と交わっていく、目を向ける意識改革が必要であると考え取組を進めている。その中で、神奈川台場地域活性化推進協会理事長である(株)山陽物産社長との出会いへとつながった。博物館が専門知識を提供したブックレット「神奈川台場物語」は、当該協会が作成し、地域の子どもたちに配布したもの。同社は、50周年時には都市発展記念館の中庭に近代遺構(基礎遺構、ガス管等)をオブジェとして飾る整備費の全額寄付し、明治時代の瓦礫や庭園の遺跡が出土し都市発展記念館の協力により分析し、山手133番館の取得・修復を行った。「歴史」や関連する文化を残すためには、人文科学として社会に役立つ・必要とされる側面の認知向上が必要で、Lightな歴史ファン層など支持母体の裾野やステークホルダーの拡大により、「歴史」を支える支援体制の強化(資金、人材)や歴史系博物館の収益源の拡大に繋がると考える。

・講義資料(なし)