担当講師:岡田智博(一般社団法人クリエイティブクラスター 代表理事)
【講義概要】
今、私たちが当たり前に使っているデジタルのサービス、豊富に選べるコンテンツ、多様な文化の豊かさに触れられる観光、それらの源には、これまでの産業発展で棄てられた中心市街地や、周縁にあった個性ある市民による文化的創造活動といった、多くの人々からは、見向きもされなかった存在が、イノベーティブな環境変化によって、芽吹きはじめ、文化的営為を通じて、これら新たなものを地域で創出し、産業化・社会化していったことが、背景に存在する。この20世紀末からの世界各地での変化こそが「創造都市」という考え方を生み出した。ここでは、創造都市における産業立地をテーマに、21世紀型産業を生み出す背景にある地域における文化的営為とその展開を、まさに時代の変化を国内外で参与しながら分析を続けてきた講師が、大都市から里山まで、さまざまな現場をあげながら説いていく。
◎11月26日(火)「創造都市」がもたらす新産業の立地
・講義動画
日本では、マルチメディアソフトが1980年代から90年代にかけて創成と成長が続く中、北海道大学研究室では道民に開かれた「マイクロコンピュータ研究会」が設立され、道民の趣味者が出入りし創造の場となった。マイコンからパソコンへと急速に変化する中、ソフトウエア技術を有する彼らへ大手電機企業が下請けとして開発・発注をすることで、スタートアップを輩出した。
2000年代以降、ゲームや映像分野における、デジタル制作技術の急速な進歩とパーソナル化、ネットワーク化が進んだ。これまでのグローバルなコンテンツ・エンターテインメント分野において、「辺境」とされてきた都市から、世界市場に「覇権」を唱えられるコンテンツの生産地が、急速なスピードで誕生するようになった。モントリオール(カナダ)は、既に存在していた視覚芸術・パフォーミングアーツを活かし、マルチメディア分野を新産業誘致策として着目した。これらの芸術分野を応用することにより、質の高い労働力の確保と教育環境が実現、さらに芸術活動の進歩との相乗効果により、高度なゲーム制作できる産業クラスタが数年で発現することとなった。ノビサド(セルビア)は、工業系大学の学生を中心として、自らプログラミングで制作し、国際的なオンライン流通プラットフォームを通じてリリースすることで、世界と直結するも、地元でのクリエイテイブクラスターを保ち続け、若者文化としてのデジタル表現が都市に定着し、人材育成、技術や表現の向上、制作体制のバリューチェーンが持続的に発展を続けている。 一方、日本では、2000年代以降、デジタルコンテンツ産業は地方都市においては停滞し、世界規模の製品が送りだせる企業・人材の集積は、東京などに限られている。北海道や福岡の発展が持続しなかった理由の一つに、芸術的な土壌、文化的なバックグラウンドの欠如があったのではないか。一方、カナダや東欧の地方都市が成功に至った鍵は、デジタルコンテンツ制作と連携をもたらせる文化的コミュニティが地域に存在していたことではないか。また、港湾・工業都市として発展をした高雄(台湾)の旧倉庫群をリノベーションしてアートスペースとして観光地化した事例を語った。 「創造都市」化による新産業の創出と持続に成功した都市の特徴として、様々な関係者が対話し協業可能となる緩やかに繋がるコミュニティ(ミドルグラウンド)があり、ここでの成果をシェアしあえる循環ができる構造が生まれていることが挙げられた。
・講義資料