担当講師:岡田智博(一般社団法人クリエイティブクラスター 代表理事)

【講義概要】

今、私たちが当たり前に使っているデジタルのサービス、豊富に選べるコンテンツ、多様な文化の豊かさに触れられる観光、それらの源には、これまでの産業発展で棄てられた中心市街地や、周縁にあった個性ある市民による文化的創造活動といった、多くの人々からは、見向きもされなかった存在が、イノベーティブな環境変化によって、芽吹きはじめ、文化的営為を通じて、これら新たなものを地域で創出し、産業化・社会化していったことが、背景に存在する。この20世紀末からの世界各地での変化こそが「創造都市」という考え方を生み出した。ここでは、創造都市における産業立地をテーマに、21世紀型産業を生み出す背景にある地域における文化的営為とその展開を、まさに時代の変化を国内外で参与しながら分析を続けてきた講師が、大都市から里山まで、さまざまな現場をあげながら説いていく。

12月3日(火) 地域創生のための創造的産業立地

・講義動画

 前回、アメリカでは、「文化」がさまざな経済を促進させ、創造的な人々が住む地域とIT産業の成長地域が重なっている都市の例として、大都市であるサンフランシス東部のベイエリア、小規模な都市であるサンタフェが挙げられ、都市の大小には関係がないことを紹介した。今回は、地域創生のための創造的産業立地として、大きな都市ではなく、小さな地域において創造的な産業が立ち上がってきている事例について語っていく。
創造的営為(なりわい)の積み重ね、クラスター、繋がりが創造産業を生み出す要因であり、これが創造都市である。伝統的な「なりわい」が多く残る地域、沖縄県石垣市に着目し、D.Throsbyによる創造産業の「同心円モデル」や経済センサスへのあてはめにより分析を試みた。石垣市は、中核となる文化を通じた創造的表現、クリエイティブ産業及び関連産業が全て揃っている。伝統、自然資源・遺産、現代ビジネスに加え、伝統と現在も持続発展し続ける産業(工芸、舞台芸術等)など、クリエイティブ産業要素がまんべんなく存在し、持続に結びついている。また、全産業の売上高訳1100億円のうちの27%にあたる300億円がクリエイティブ産業の売上高であり、全産業の約3割の従業者数が工芸品分野である。地域固有の創造性とその発展、昔ながらの古い営み中心の地場経済や強い地域コミュニティ、移住者も地元と取引できる寛容性などにより維持されてきた、石垣市の文化を通じた創造性は、クリエイティブ産業におけるエコシステムの重要な中核のひとつの要素と言える。ただし、石垣市は、独自の強い風土と外部経済から隔絶された環境によって残存したコミュニティ経済が、外部と連結したことによる化学反応であり、特殊解であるといえる。
 一般的な地域の創造都市化の事例としては、徳島県神山町が挙げられる。地元リーダーたちの「国際交流事業」が発端となって始まった取組である。「アーティストレジデンス」とこれを持続させるためのNPO法人グリーンバレーを立ち上げた。その後、移住者の受け入れや、独自の教育をする高専の設立へと活動を広げている。また、檜原村・あきる野市五日市では、創造的価値が互恵するアートプロジェクトを実施している。2021年に開始し、現在は、住民からの支持を得て、空家や文化財などを活用した展示会場や参加する作家が拡大し、アート作品の展示だけではなくライブ等の他分野へも展開、「あきがわアートストリーム」として一か月間の規模で展開できるようになっている。
 この2つの地域の創造都市化から、R・フロリダがいう、クリエイティブを要する新産業を成長させる3T(Talent,Technology,Tolerance)という条件が重要であることがわかる。即ち、多様な創造性を持った人々が、文化芸術の創造造成を地域にアダプテーションさせ、発揮できる環境、これらの実現に寄与する寛容性が必要である。また、これらの取組の課題についても語られた。

・講義資料