担当講師:鈴木伸治(横浜市立大学国際教養学部 教授)
【講義概要】
日本の創造都市政策については、文化政策、創造産業の振興、まちづくりなど多様なアプローチがみられる。このユニットではまちづくりの観点から創造都市の可能性について再検討していく。ここでは「リノベーション」「アーバニズム」「ウォーカブル」「郊外」をキーワードに講座を展開し、創造都市との関連性や、展開可能性について議論する。
◎10月17日(木) 創造都市における郊外の可能性(大森文彦・東京科学大学准教授)
・講義動画
「郊外」は、都心中心部と並列することで成立しうる概念で、18世紀末~19世紀前半のイギリスでは、郊外に文化人・芸術家のパトロンが理想的な田園風景を都市近郊に再現し、文化人の集うサロンとした。また、1890年代にはエヴェネザー・ハワードの田園都市運動の具現化であるレッチワースのように、都市と農村の双方の利点を取り入れた郊外開発の機運も生まれた。日本では、明治期までは職住近接が一般的であったが、大正期に入り「鉄道・バス」を通勤手段として「都心」で働く「郊外」に住む事務労働者が誕生した。明治期後半から多くの実業家が鉄道経営に進出し、鉄道利用を促す事業展開として、沿線での劇場、野球場、百貨店などの集客施設の設置や、最も安定的な需要を生む、田園調布などの住宅地分譲が行われた。その後、戦中の同潤会や住宅営団、戦後の日本住宅公団や鉄道会社による住宅不足に対応したニュータウン開発が各地で行われた。広い意味で東京の郊外である横浜だが、横浜駅・みなとみらい・関内エリアは都心であり、都心・臨海部を除く住宅地は概ね郊外である。郊外での芸術系施設によるアート活動は限定的であるが、都心にはない余白や暮らし、地域活動が盛んであることから、「DAYLY SUPLY SSS」「753village」「左近山アートフェスティバル」などの創造的な取組が見られる。創造都市の郊外への可能性として、個別の柔軟なサポート・住民理解、多極分散的で住む・暮らす場所の価値向上への寄与、郊外ならではの解放感の活用などが挙げられた。
・講義資料