担当講師:鈴木伸治(横浜市立大学国際教養学部 教授)

【講義概要】

まちづくりと創造都市の接点を考える上で、重要なポイントとなりつつあるウェルビーイングやリノベーション、創造的人材をキーワードに講座をすすめる。大都市のみならず、都心周縁部や地方都市、人口減少地域などさまざまなスケールからまちづくりと創造都市の関係性を考える。

12月5日(木) 長屋のまちからの文化発信 (後藤大輝・暇と梅爺株式会社代表取締役)

・講義動画

戦前の長屋が残っている墨田区京島地区。下町人情の町であるが、木造密集市街地として防災上の課題を長年抱えてきた。この地区のまちづくりは、1970年代後半は「ものづくりの町」、1980年代以降は「防災」のまちづくりが進められてきた。1998年向島国際デザインワークショップや向島博覧会の開催から町にアーティストが定着し、文化創造のまちづくりが始まり、この新住民による「地元」づくり的な動きがあり、今に至る。 映像制作の仕事をしていた後藤大輝氏は、まちの風景にひかれて2008年に京島に移住し、2010年には商店街の入り口の物件を建築家の先輩と二人で借り、シェアカフェを開業した。以後、この拠点がハブとなって、2軒目、3軒目の使われていない家屋の大家さんを見つけ、活用に繋げていった。通常は賃貸されにくいアトリエ利用を求めるアーティストが自由に使える物件、不動産屋に出されない収益を見込めない物件を借りて、修繕をし、シェアハウスやレンタルスペース等として、転貸・運営をしていった。おもしろいアイデアを持った人への町の案内と併せ、31軒の家屋を借り、20軒ほどは直接紹介などをした結果、現在、18の店舗、3つの旅館を運営し、45人の店主、200人ほどの住民と関係づくりができている。しかし、地縁の強いこの地域においてはマイノリティであると感じることもある。また現在でも活用よりも解体される古い家屋の方が多い。地縁のコミュニティよりもハード(家屋)を守るほうが難しく、文化としての「長屋」を明文化することが必要である。毎年10月から 1か月間開催する「すみだ向島EXPO」は、東京オリンピックを契機に京島が一般の人に認知される前に価値観を打ち出しておくことを目的に計画がスタートしたが、コロナ禍により、地域の隣人に向けて開催することとなり、今年で5回目になった。EXPOの開催場所の調整は、新たな物件や地域への挨拶回りのきっかけとなっており、新しい人が新しい拠点を構えていく流れにも繋がっていく。アーティスト・クリエイターが、地域との繋がりをつくるため、神社の役員なども引き受ける傾向もみられ、年数をかけて地域に根差してきている。また、年1回のEXPOで結集して交流することで、新しい協働の萌芽に繋がっていくし、美術館、ギャラリーではない、芸術祭でもない、第四のフィールドをアーティストが求めている。お店を構えながらアーティストワークをする、暮らしの中で自分の仕事と表現を町から生み出していく、そういった世代が京島のまちの中で活躍している。

・講義資料(なし)