担当講師:岡田智博(一般社団法人クリエイティブクラスター 代表理事)

【講義概要】

今、私たちが当たり前に使っているデジタルのサービス、豊富に選べるコンテンツ、多様な文化の豊かさに触れられる観光、それらの源には、これまでの産業発展で棄てられた中心市街地や、周縁にあった個性ある市民による文化的創造活動といった、多くの人々からは、見向きもされなかった存在が、イノベーティブな環境変化によって、芽吹きはじめ、文化的営為を通じて、これら新たなものを地域で創出し、産業化・社会化していったことが、背景に存在する。この20世紀末からの世界各地での変化こそが「創造都市」という考え方を生み出した。ここでは、創造都市における産業立地をテーマに、21世紀型産業を生み出す背景にある地域における文化的営為とその展開を、まさに時代の変化を国内外で参与しながら分析を続けてきた講師が、大都市から里山まで、さまざまな現場をあげながら説いていく。

◎12月10日(火) 持続発展可能な創造的地域としてのバリューチェーンに向けて

・講義動画

持続発展する創造都市は、2種類考えられ、一つは「創造」が地場産業になった「まち」である。即ち、なりわい(経済)が持続するまちであり、「手仕事」という「なりわいエコシステム」がある石垣市や、「民藝」運動で培った「工芸」でなりわいができるエコシステムのある松本市がそれに該当する。これらは、行政がエコシステムの発展に介在していない特徴がある。また、もう一つは、持続発展する創造都市として、一般的な捉え方と考えられる「創造」が地域発展をキーに据えた「まち」である。即ち、地域経営的持続性を備えたまちであり、文化や観光政策など地域のリーダーシップ活動の「政策アイディア」として創造都市を活用した金沢市、Pier2の圧倒的成功を担保に創造都市を経営した高雄市、現代アート芸術祭を移住促進、関係人口確保の手段として活用した中之条町などが該当する。これらは、担保性のある利点を了解して、行政や地元実力者界がエコシステムの発展に介在している。
創造都市の持続発展を阻害するリスクとしては、リーダーシップの発揮やキャリア構築ができる仕事がないことによる「世代継承」のリスク、大阪の市長交代で創造都市構想が消滅したように「政策の切れ目が縁の切れ目」となるリスク、創造性の特徴である多様な主体の参画による「厚み」を担保できず持続を阻害することとなる「参画性の欠乏」によるリスクが挙げられる。参画性の担保には、政策における「ミドルグラウンド」化が肝要である。即ち、活動者層である「アンダーグラウンド」と、政府や大きな市場を持つ企業等の組織層である「アッパーグラウンド」の結びつきを強める存在である層の「ミドルグラウンド」、主として中間支援的活動や関係づくりに取り組む団体・組織が、産業や文化、社会活動におけるきっかけづくりをもたらす存在となる。
創造都市の持続発展のためには、官製ではなく共創、住民が実感できる「創造性」メリットの構築、脱「プロモーティング」・脱「物件」の3つが必要であると語られた。

・講義資料